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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)150号 判決 1995年3月29日

主文

特許庁が、昭和六三年審判第一四四九三号事件について、平成六年四月二八日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  当事者の求めた判決

一  原告

主文と同旨

二  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者間に争いのない事実

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和六一年四月二五日、別紙一表示のとおりの図形部分と「Gibelty」の欧文字及び「ギベルティー」の片仮名文字を上下二段に並べて横書きした文字部分とを組み合わせた構成からなる商標(以下「本願商標」という。)につき、指定商品を第一七類「被服、その他本類に属する商品」として、商標登録出願をした(昭和六一年商標登録願第四二二八二号)が、昭和六三年二月二五日拒絶査定を受けたので、同年八月五日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第一四四九三号事件として審理したうえ、平成六年四月二八日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年六月一日、原告に送達された。

二  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、別紙二表示のとおりの「GIBALTI」の欧文字と「ギバルティ」の片仮名文字を上下二段に並べて横書きした構成からなる登録第一一五六一〇九号商標(昭和四七年八月一六日登録出願、同五〇年九月二五日に設定登録され、現に有効に存続するもの。指定商品第一七類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」。以下「引用商標」という。)を引用し、本願商標と引用商標は、称呼において類似する商標であり、かつ、指定商品においても同一又は類似の商品と認められるから、本願商標は、商標法四条一項一一号に該当し、登録するとはできない、と判断した。

第三  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願商標、引用商標についての記載は認める。

審決は、本願商標及び引用商標のそれぞれについての認識を誤り、その類否の判断を誤っているので、違法として取り消されなければならない。

一  本願商標の図形部分と文字部分の一体性

審決は、「本願商標の構成中の文字部分は、図形部分とは外観上分離しているばかりでなく、文字部分が図形部分の愛称として親しまれているというような両部分が概念上不可分一体の関係にあるものというべき事由も見いだしえない。そうすると、文字部分は、図形部分より分離独立しても看者の注意を引きつける部分であるということができるから、文字部分をもって取引に資されることも決して少なくないというべきである」と認定しているが、誤りである。

原告は、婦人服の製造、販売業者であり、本願商標は、婦人服に関するものである。そして、上記商品に使用される場合、本願商標は、図形部分と文字部分が切り離されることなく、合体した一つのマークとして使用されるものであり、外観上も看者にとって一体のものとして認識されるものである。

また、本願商標は、文字部分のみで取引に資されることはほとんどなく、図形部分が本願商標の特質を表し、半分以上の価値を有するものである。

かかる観点から本願商標と引用商標を比較すると、図形部分と文字部分が一体となった本願商標と、文字部分のみの引用商標とは、外観上差異があることは明らかであり、看者をして混同を生じさせることはない。

したがって、図形部分を除いた文字部分のみの比較によって、本願商標と引用商標が類似しているとした審決の判断は誤りである。

二  文字部分について

審決は、「本願商標の文字部分も引用商標も、共に一種の造語よりなるものであって、その構成文字に相応して、本願商標からは「ギベルティー」、引用商標からは「ギバルティ」の各称呼が生ずる。そして、両商標から生ずる称呼を比較すると、両者は、称呼の識別上重要な要素を占める語頭音「ギ」を共通にするだけでなく、第三音及び第四音を構成する「ル」と「ティ」の各音をも共通にするものであって、両商標は、ともに造語よりなるものであることともあいまって、それぞれから生ずる称呼を全体として一連に称呼した場合には、その語調語感が近似したものとして聴取されるから、両者は、称呼において類似の商標といわなければならない」と認定しているが、誤りである。

本願商標と引用商標とは、「ギベルティー」、「ギバルティ」と第二音が異なるばかりでなく、字体は全く異なり、欧文字部分の末尾の綴りも本願商標が「ty」であるに対し、引用商標は「TI」と区別されうるものである。しかも、本願商標は、欧文字部分の頭文字のみが大文字でその余は小文字であるのに対し、引用商標は、全部大文字であるから、外観上その区別は容易で、混同を生じることはない。

また、片仮名部分についても、字体、綴りが異なり、特に第二音の「ベ」と「バ」は同じバ行であっても語感が大きく異なっている。このことは、例えば、「ベートーベン」と「バートーベン」、「ベッハ」と「バッハ」、「ベッド」と「バッド」は全く印象が異なることからも容易に理解できる。

以上のとおり、本願商標と引用商標は、文字部分についても、外観及び称呼において上記の差異があり、到底類似しているとはいえない。

三  以上のとおり、本願商標と引用商標は、図形部分と文字部分を総合して判断した場合に相紛らわしい点はなく、また、文字部分についても外観及び称呼において類似しないから、審決の判断が誤りであることは明らかである。

第四  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であるから、原告の主張はいずれも理由がない。

一  商標が図形と文字からなる場合、取引者や需要者がこの商標を使用した商品を認識し指示するに当たっては、通常、前記図形及び文字をもって構成される商標全体のうち、特に看者の注意を引き易い部分あるいは親しみやすい部分である要部によってするものということができる。

本願商標は、図形部分と文字部分よりなるものであるが、その構成中の「Gibelty」及び「ギベルティー」の文字部分は、その構成中の図形部分と外観上分離しているばかりでなく、文字部分は、特定の意味合い又は観念を有するものとはいえず、文字部分との関係よりみても、これが図形部分の愛称として親しまれているというような関係にあるものとすべき事由も見だしえないから、本願商標を構成する図形部分と文字部分とは、その観念上も不可分一体の関係にあるとすべき事由はないというべきである。

簡易迅速を旨とする商取引の実際において取引者・需要者は、親しみ易い文字部分をもって本願商標を付した商品を認識し識別することも決して少なくないというべきである。なお、本願商標の文字部分は、原告の商号「株式会社ギベルティー」の略称又はその欧文字表記に相当するものといいうるところであるから、その文字部分に接する取引者・需要者は、これを商品の出所標識として容易に認識しうるものであるということができる。

そうすると、本願商標の構成にあって、看者の注意を引き易い「Gibelty」及び「ギベルティー」の文字部分をもって引用商標との類否判断をした審決の判断は正当である。

二  本願商標と引用例商標とが称呼上類似するものであることの具体的理由は、審決の理由(審決書三頁一六行~四頁一五行)記載のとおりである。

なお、本願商標と引用商標とでは、その文字部分について字体や綴りの違いがあるとしても、その構成中の片仮名文字部分「ギベルティー」及び「ギバルティ」は、構成中の欧文字部分「Gibelty」及び「GIBALTI」の称呼をそれぞれ特定すべき役割を果たすものと無理なく認識しうるものであって、看者が読み易く自然に称呼しうる部分であることからすれば、両者の構成中の欧文字部分の末尾にて「ty」と「TI」との差異を有するとしても、その差異が、両者を前記それぞれの文字部分より生ずる称呼において称呼上類似する商標であると判断することの妨げとはなりえない。

第五  証拠《略》

第六  当裁判所の判断

一  本願商標及び引用商標の構成、指定商品、両商標の称呼が審決認定のとおりであることは、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、本願商標と引用商標との類否について検討する。

(一) 商標の類否は、同一又は類似の商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者・需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきである(最高裁昭和三九年(行ツ)第一一〇号昭和四三年二月二七日判決)。

また、今日のように情報媒体が多様化し、情報量が飛躍的に増大した社会において、世人は多量の情報を識別認識することに慣れ、個々の情報間の差異に敏感に反応する習性が培われていることは、当裁判所に顕著な事実であり、特に、限られた時間内に自己商品の特徴を取引者・需要者に訴え、顧客の購買力を喚起しなければならない広告媒体・商品表示等においては、従来から、一見して認識可能な図形の持つ情報伝達力が重視されて来ており、現時においては、これらに限られず、図形の持つ情報伝達力が文字の持つ情報伝達力と比肩するに足りる大きさを有するに至っている分野が多くなっているということができることも、経験則上明らかな事実である。

このことからすると、商標の類否の判断において、商標の外観、観念、称呼の各要素は、あくまでも、総合的全体的な考察の一要素にすぎず、また、図形と文字の結合商標にあっては、文字部分のみをいたずらに重視して図形部分の持つ情報伝達力を軽んずることは、特段の理由のない限り許されず、当該商標における図形部分と文字部分の相互関係を慎重に検討しなければならないというべきである。

(二) この見地から、本願商標をみると、本願商標の構成は、別紙一に表示したとおり、図形部分と文字部分よりなるものであり、その図形は、Gの飾り文字を記した白色の箱状の台の上に黒猫が尾を立てて横向きに座し、頭部を正面に向けて両眼を光らせていると認められる特徴のあるものであり、この右に、片仮名で太く横書きされた「ギベルティー」の文字と、その上段右半分に片仮名よりは小さいやや右に傾斜した欧文字で横書きされた「Gibelty」の文字からなるものであり、その指定商品である被服等に用いられる場合、図形部分と文字部分が特に分離して用いられる必然性はなく、両者はその構成どおり一体として用いられることを通常とするものと認められる。

審決は、「本願商標は、……図形部分と文字部分よりなるものであるが、その構成中の文字部分は、その図形部分と外観上分離しているばかりでなく、その文字部分が該図形部分の愛称として親しまれているという如きな両部分が概念上不可分一体の関係にあるものと認めるべき事由も見い出し得ないものである。そうとすれば、該文字部分は、図形部分より分離独立しても看者の注意を引きつける部分であるということができるから、該文字部分をもって取引に資されることも決して少なくないというべきであり、さらに、該文字部分は、特定の観念をもって世人に親しまれているものとはいい難いことから、一種の造語よりなるものとみるのが相当である。してみれば、本願商標は、その構成文字に相応して「ギベルティ」の称呼を生ずるものである。」(審決書二頁一五行~六頁一〇行)として、以下、この称呼が引用商標の称呼と類似することのみを理由に、本願商標が引用商標に類似するものと判断している。

しかし、図形部分と文字部分との結合商標の場合に、両部分が外観上概念上不可分一体の関係にあるものと認めるべき事由がある場合のみにこれを一体のものとし、これに当てはまらない場合は別個のものとして、文字部分に依拠して商標の要部をとらえるとの考察方法は、前示のとおり、世人が個々の情報間の差異に敏感に反応する習性を有し、また、図形の持つ情報伝達力が文字の持つ情報伝達力と比肩するに足りる大きさを有するに至っている現時の社会情勢からすれば、結合商標の商品識別力を正当に評価する方法としては、安易にすぎるものといわなければならない。

本願商標は、その文字部分の「ギベルティー」が特定の観念を持つものと認められないこととあいまって、その特徴のある図形もまた、取引者・需要者に強い印象を与えるものと認められるから、本願商標から「ギベルティー」の称呼が生ずるとしても、それは常にその特徴のある黒猫の図形とともに想起されるというべきであり、その意味で、本願商標からは、「黒猫の……」との観念が生ずるものと認めて差し支えないものというべきである。

これに対し、引用商標は、上下二段に横書きした欧文字の「GIBALTI」及び片仮名の「ギバルティ」の構成よりなり、これらの文字の示すとおり、「ギバルティ」の称呼が生ずることは、当事者間に争いがなく、また、この構成から格別の観念が生じるものとは認められない。

(三) 以上を前提に両商標を対比すると、両商標は全体として、その外観が相違し、観念においても差異があることは明らかである。

のみならず、本願商標から「ギベルティー」の称呼が生ずるとしても、それは、常にその特徴のある黒猫の図形とともに想起されるものであるうえ、引用商標から生ずる「ギバルティ」の称呼とは第二音において差異があり、前示今日の情報社会における世人の習性と、一般に、外国語あるいは外国語を思わせる称呼の場合、発音の違いに比較的強い注意を向け、その差異を聴き分けようとする傾向があるとの経験則上認められる事実によれば、両者の称呼が相当に近似しているとしても、その称呼の近似性は、上記外観、観念の相違にかかわらず、総合的全体的に考察して両商標を類似するものとしなければならない程度にまで達していると認めることはできないというべきである。

(四) そうすると、前示図形部分の持つ情報伝達力に十分留意せず、図形部分と文字部分を切り離し、単に本願商標の文字部分の称呼が引用商標の称呼と類似することのみを理由に、本願商標が引用商標に類似するものとした審決の判断は誤りといわなければならず、審決は違法として取消しを免れない。

三  よって、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和男 裁判官 芝田俊文)

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